古庄浩明
はじめに
考古学は人類が残した遺物・遺構から人類の行動、思考、生活様式、精神文化、社会組織などを復元し、人類の歴史や人類の社会を考察する学問である。
したがって考古学の研究の対象は大きく遺物と遺構がある。考古学者はこれらを調査するにあたり、考古学にとって必要な情報を記載した図面を作成することによって、お互いに情報を共有し、研究を進めることができる。考古学で作成する図面には、遺跡や遺物を見たことのない研究者に必要な情報をあたえることができるだけの十分な情報が盛り込まれていなければならない。
考古学で作成する図面に盛り込まれていなければならない基礎的情報とは次の4点である。
1,どのようにして作られたか
2,どのようにして使われたか
3,どのようにして捨てられたか
4,どのようにして現在まで残ってきたか
1,どのようにして作られたか
遺物・遺構の作られ方には、当時の技術レベルや社会組織が反映している。
1軒から5軒ほどの住居跡の集合が造られる場合と、城壁が回る都市が造られる場合ではそれを造った社会組織が違うことは容易に推測できる。また、自然発生的にできた集落と計画的に造られた集落でも同様である。遺構の中には砦や見張り台、神殿など特別の意味を持つ遺構もあり、一般の住居とは違った造りの物となる。
遺物では、土器を例にとると、各家族で自己消費のために作られた土器と、専門集団によって大量につくられ販売された土器ではその製作技法に違いが現れている。考古学者はその製作技法を知ることによって社会組織の違いを知ることができるのである。また、同じ機能で同じ製作技法をもつ土器の分布は同じ社会に所属している人々の分布と考えることもできる。 したがって、考古学で作成される図面には「どのようにして作られたか」という製作技法の情報が盛り込まれていなければならない。
2,どのようにして使われたか
遺物・遺構の使い方にも、当時の技術や社会が反映されている。遺物・遺構の中には当時の人々の生活様式や精神文化をも知ることができる物もある。
神殿や砦、権力者の墓などは当時の社会を如実に物語っている。またしばしば、お墓には土器が伴うことがある。これは死者を弔うものであり、当時の葬式の様子をうかがい知ることができる。また、料理中に火災に遭ったと思われる台所からは竈に置かれたままの土器や食卓に並べられたであろう土器群が出土し、当時のキッチンの様子がわかる遺跡もある。
3,どのようにして捨てられたか
遺構の場合、その放棄には何らかの理由が考えられる。家族の増減がその一員となったり、食料の調達や水の確保が困難となったり、不慮の事故などもその原因となる。地震や自然環境の変化や敵の侵入により遺跡全体が放棄されたり、破壊されたりすることもある。
土器はほとんどの場合、破損などによってその機能が失われたことによって放棄される場合が多いが、生活様式の変化によって使用可能な物を捨てる場合もある。敵の進入によってその場に残して逃げた場合もある。また、祭祀においては遺物を放棄することによって神様への捧げ物とすることもある。
4,どのようにして今まで残ってきたか
残されてきた原因に遺構・遺物に対する人々の思考が反映されている場合がある。いまも信仰の対象となっている遺構・遺物は少なくない。また、残されてきた環境を知ることは遺物や遺構の今後の保存のためには必要な情報となる。
以上の4点は考古学で作成される図には基礎的な情報として盛り込まれていなければならない重要なポイントである。
Ⅰ,遺物の実測
遺物の実測には大きく2つの方法がある。
1,横から見て実測する方法
2,上から見て実測する方法
実測方法は対象となる遺物の大きさや形、遺存状況によって大きく左右される。したがって遺物に応じてその時々でケース・バイ・ケースに実測方法を選択する。
1,横から見て実測する方法
横から見て実測する方法はおもに土器の実測にもちいられることがおおい。ここでは土器を例にとって実測方法を解説する。
A,土器の大きさを知る
完全な形で残されている土器はこの作業は必要がないが、破片で発見された土器は口縁部や胴部、底部の半径からその大きさを知ることができる。
破片として残っている部分を紙の上に写し描く。
ⅰ この紙を2度折って中心点を見つける(fig1)
ⅱ 2点を結ぶ直線を2本引く。それぞれの中心から直角な線を引く。この直角に引いた線が交わるところが中心点である。
ⅲ 写し描いた線の上を中心とした小さな円をいくつも描く。小さな円が交わった2点を結んだ線が交差したところが中心点である。
土器はすべて不整形の円をしている。従ってすべての線が一つの中心点に集まることはない。できるだけお互いが離れた場所から描かれた線によって結ばれた点を中心点として考えた方がよい。
B,外形線を描く
基本的に右側に断面図、左側に外側の線を描く。左側に断面図を描く研究者もいる。
ここでは右側に断面図を描く方法を解説する。
断面図は右側4分の1を切り取ったと仮定して描いている。従って右側には内側、左側には外側を描く。(ケーキの4分の1を切り取ったところをイメージしていただきたい)
破片の場合は断面図を描く右側に遺物の残存部分が多い方を置く。
完全な形や直径がわかる土器の場合は方眼紙の上に方眼の目と土器の直径が重なるように置く。このときの方眼紙の線が実測する基本の線となる。
口縁部を下にして実測しても底部を下にして実測しても良い。口縁部の直径から土器の大きさを復元した場合は口縁部を下に、底部の直径から土器の大きさを復元した場合は底部を下にする。
ⅰ方眼がついた三角定規を土器の左右に方眼紙の基本の線に合わせて2本立てる。このとき三角定規は基本線の上の計りやすい点に置いておく必要がある。この三角定規から実測したいポイントに直角に定規を差し出す。このとき、三角定規と差し出した定規の両方の数字をよむ。
三角定規の数字をY軸に、差し出した定規の数字をX軸にして、別の方眼紙にその数字を描く。これを繰り返すことによって外形線を作成する。
ⅱ方眼がついた三角定規を土器の左右に方眼紙の基本の線に合わせて2本立てる。このとき三角定規は基本線の上の計りやすい点に置いておく必要がある。三角定規の土器より上の部分に三角定規が直角になるように定規をセットする。このとき片方の三角定規との交差点が上にセットした定規の目盛りの0になるようにする。上の定規から下へ別の定規を差し下ろし、上の定規の数字をX軸に、下に差し出した定規の目盛りをY軸にして別の方眼紙にその数字を描く。これを繰り返すことによって外形線を作成する。
・マコを土器に当て計った点を結んでも良い。
・線が屈曲するところや制作技法がわかるところを計る。
・計った点は必ずチェックをつけてトレーサーに線の屈曲や制作技法の変化の情報を伝える。
C,断面を描く
口縁部が残っているときは口縁部を基準点とする。口縁部がない場合は外形線の中でわかっているポイントを基準点とする。厚さを測るポイントを基準点からディバイダーで計って決める。ディバイダーで決めたポイントの厚さをキャリパーで測り、これを方眼紙に写す。
このとき、キャリパーは土器面に対し90度にあてなくてはならない。断面に土器の製作技法が見える場合はそれを描く(輪積み跡・底部の製作技法など)
・マコを土器にあてて計った点を結んでもよい。
・口縁部は測定が難しいのでよく観察して描く。
・指を使って目に見えない土器の凹凸を知る。
D,表面や内面の模様や調整技法を描く
表面には土器の製作技法や使用痕など多くの情報が残されている。これらを丹念に描くことが重要である。
ⅰ方眼がついた三角定規を土器の左右に方眼紙の基本の線に合わせて2本立てる。このとき三角定規は基本線の上の計りやすい点に置いておく必要がある。三角定規の土器より上の部分に三角定規が直角になるように定規をセットする。このとき片方の三角定規との交差点が上にセットした定規の目盛りの0になるようにする。上の定規から下へ別の定規を差し下ろし、上の定規の数字をX軸に、下に差し出した定規の目盛りをY軸にして別の方眼紙にその数字を描く。これを繰り返すことによって表面や内面の模様や調整技法を描く。
ⅱ測量したい点の前に三角定規を方眼紙の目に沿って立てる。定規を三角定規の目に沿って測量したい点に差し出す。三角定規と定規の交差点の三角定規の数字をよむ。方眼紙の目盛りをX軸に、三角定規の目盛りをY軸として方眼紙に描く。これを繰り返すことによって表面や内面の模様や調整技法を描く。この場合は土器の底を下にして描いた方が描きやすい。
ⅲ口縁部が残っているときは口縁部を基準点とする。口縁部がない場合は外形線の中でわかっているポイントを基準点とする。測量したい点を基準点からディバイダーで計って、そのディバイダーをすでに描いた外形線の上にあてる。内面の場合はディバイダーを断面に、外面の場合は左外面にあてる。ディバイダーで印をつけた点から方眼紙のX軸に沿って中心線までを半径とした円をコンパスで描く。土器の外形線をとった場所から測量したい点までをディバイダーで計り、コンパスで描いた円の上に外形線を基準としてディバイダーをあてる。円上のディバイダーで計ったポイントを方眼紙のY軸の目に沿って外形線にディバイダーで印をつけたX軸まで移動させてポイントを描く。これを繰り返すことによって表面や内面の模様や調整技法を描く。
ⅳ外形線の中でわかっているポイント2点を基準点として、この2点の基準点からから計りたいポイントへディバイダーをあてて、両方からのディバイダーの交差する点を描く。この場合、ディバイダーを土器の表面にあてるのではなく、測量したいポイントと併行になるようにディバイダーをあてる。
土器の実測図には基本的に成形技法と調整技法と装飾文様が表現されなければならない。
成形技法には「輪積技法」と「ロクロ水引き技法」、「てづくね」がある。輪積みの場合は、表面や断面にその跡がわかる場合がある。ロクロ水引きの場合、ロクロの回転方法は制作者の癖であり、描かなければならない重要な要素である。ロクロが時計回転のとき外面の指の跡や工具の跡が左上がりになり、ロクロが反時計回転のとき右上がりになる。てづくねでは指の跡が明確にわかることがあり、個人を特定できる資料となる場合がある。
また、土器の底部には土器を台から切り離したときの跡があり、静止糸切り、回転糸切り、へらきりなどがある。
調整技法には「なで」「刷毛目」「櫛ガキ」「かきあげ」「へら削り」「磨き」などがある。
「なで」は指でなでる場合、布でなる場合、皮でなでる場合など様々である。
「刷毛目」は正目の板状の工具でなでたものと考えられる。
「かきあげ」は板状の工具で内面や外面を薄くするために削り取ったあとである。主に壺の内面や大甕などに用いられている技法である。
「へら削り」はロクロや回転台を回転させながら削った「回転へら削り」と手持ちで行った「手持ちへら削り」がある。
「磨き」は光沢を出すために表面に棒状の工具で行った技術である。
厚木市教育委員会 1978 『子ノ神』p32-2
土器本体に取り付けられた物として「取っ手」や「注ぎ口」などがある。
使用痕としてカーボンの付着や補修の跡、二次的な使用の跡も書き加えておく。
装飾文様には「付帯的な装飾」「突状文」「凹状文」がある。
「付帯的な装飾」は土器に貼り付けた物で、それ自体には有効な機能はなく単に飾りとしてつけられている物である。そこには土器制作者の精神文化や社会的規制が反映されてい
K.Tanabe,A.Hori et al.;Excavation at Dal’verzin Tepe, Uzbekistan,1999,Bulletin of the Ancient Orient Museum Vol.XX 1999 p134 99DTC41017 99DTC41010
る物であり、形式学的にも重要な意味を持つ場合がある。
「突状文」は粘土を貼り付けた装飾で、線状やボタン状の物などである。
「凹状文」は表面を削ることによってつけた装飾で、沈線や櫛ガキ波状文などがある。
E,その他の情報を書く
土器が持つ情報には図化できない情報がある。これらの情報は文章として土器の横に書き加えておく。
土器の回りにはへら削りやなでの範囲を矢印で示しながら書き加えておく。その他カーボンの付着、土器を砥石代わりに使った跡などの使用痕の情報も書き加えておく。
ⅰ胎土 土器の中に含まれている土の情報である。
土の粒子が荒いものか細かいかを書く
土の密度が高いか粗いものかを書く
土の中の粒子の粒の性質について書くわかるようであれば石英や雲母、繊維質など含まれているものについて書く。
ⅱ焼成 土器の焼かれている状況について書く。
焼成が良好なのか不良なのか、還元焼成なのか酸化焼成なのかなど
ⅲ色調 土器の内面・外面の色について書く
日本においては土色帳を使うことによって色の共通認識を計っている
ⅳその他 ロクロの回転方向などの情報を書く
特に気づいたことを書く
2,上から見て実測する方法
上から見て実測する方法は石器やテラコッタ、金属製品、土器の破片など比較的小さな遺物を実測する場合に用いられる。遺物を紙の上に直接置いて実測するが、展開図を描く場合など、上下、左右の実測図の整合性を保つため方眼紙において描いた方が描きやすい。
A,断面図を描く(土器片の場合)
土器片を描く場合、土器片の角度が重要となる。口縁部の場合口縁部が水平になるような角度で断面図を描く。底部の場合は底部が水平になるようにする。胴部の場合は「撫で」や「削り」ラインを参考にそれらがほぼ水平になるような角度で断面図を描く。断面図はマコを使うと比較的簡単に実測できる。
B,外形線を実測する
遺物を方眼紙の上に置き、三角定規や小さな三角スケールなどを使って真下に実測したいポイントを描き写す。石器の場合、剥離痕や使用痕を丹念に描くことが重要である。土器片の場合、先に作成した断面図の上下の部分の方眼のX軸ライン上に土器の角度があうように粘土などで固定してから描く。
C,表面を描く
外形線の中でわかっているポイント2点を基準点として、この2点の基準点から計りたいポイントへディバイダーをあてて、両方からのディバイダーの交差する
点を描く。この場合、ディバイダーを土器の表面にあてるのではなく、測量したいポイントと水平になるようにディバイダーをあてる。そのために基準点に三角定規や小さな三角スケールを立て水平を保つようにする。
簡単な方法として、遺物を外形線の上に置き、表面の計りたいポイントを鉛筆で指し、遺物をずらして鉛筆を紙の上におろす方法もあるが、誤差が大きい。
石器の場合、剥離痕や使用痕、剥離の順序、打点、リング、フィッシャーなどを丹念に描くことが要求される。
D,側面図を描く
表面を描いたあと、その上下のX軸に線を引き、遺物をその線に合わせて遺物を90度回転させて固定して側面図を描く。表面に現れている特徴的ポイントをX軸方向に平行移動させておくと良い。右側に移動させるときは右側の側面を、左側に移動させるときは左側面を描く。上下を描くときはY軸上に上に移動させたときは上の面を、下に移動さ
Tanabe,K.,Yamauchi,K. et al.;Excavation at Dal’verzin Tepe, Uzbekistan,2000,Bulletin of the Ancient Orient Museum Vol.XXI 2000 p138 00DTC42004
せたときは下の面を描く。
方眼のついた三角定規の上に遺物を固定し、定規を90度回転させて三角定規の上に小さな三角スケールを乗せて計る方法もある。
E,裏面を描く
基本的に表面を描く方法と同じであるが、表面や側面とX軸上で併行になるようにする。特徴的なポイントなどが側面とあうようにしなければならない。外形線は表面の左右逆転形となるので、トレーシングペーパーなどで写し取ることもある。
土器の場合左から、外面、内面、断面図と配置する方法や内面、断面図、外面と配置する方法がある。
加藤晋平・鶴丸俊明1980『図録 石器の基礎知識Ⅰ』柏書房 p104-23 広郷角田遺跡
加藤晋平・鶴丸俊明1980『図録 石器の基礎知識Ⅰ』柏書房 p122-2 前原遺跡(小田静夫・伊藤富治夫・C.T.キーリー編 1976 『前原遺跡』国際基督教大学考古学研究センター)
遺物の実測は技術であるので、練習が必要である。トレースなど後の作業のことを考えて、鉛筆の線を細く濃く描く、外形線を濃く内側の調整などをやや薄く描くなど、線をきれいに描くことはもちろん必要であるが、何よりも、実測図の中に考古学に必要な情報が盛り込まれていることが最も重要である。
形式学
形式学とは考古資料の分類方法である。
人間は社会的動物である。人間は集団を形成して生存し、集団は共通の意識のもと、礼儀作法やものの作り方・道具の使用・お祭り・葬送儀礼など共通の行動方式をとる。個人はその所属集団に意識的にもしくは無意識に規制されて行動しており、この共通の行動様式を「文化」と呼ぶ。従って人間によって制作され使用された考古学資料は、それを制作し、使用した人間の所属する集団の行動方式が反映されており、同じ「文化」を持つ人間は類似性のある物質を作ることになる。考古資料を分類し、類似性を持つ遺物を見つけ出すことは同じ文化を持つ集団を見つけ出すことであり、このことが考古学における分類の基本的な単位となる。
考古資料を分類するための尺度は機能と空間と時間である。
形式(form)とは機能や用途に基づく分類である。たとえば土器では煮炊きをする鍋、食べ物を入れる皿、貯蔵用の壺、液体を注ぐ水差し、大量に貯蔵するための大甕などに分類することが形式分類である。
分布とは同一形式の遺物の空間的広がりである。同一形式の遺物の広がりはそれを使用する文化をもつ人々の広がりを示す可能性がある。分布は一般に中心地域から徐々に粗になる傾向を示し、文化の粗密を表すことになる。移住などによって人々が動きを示すと、分布にもその動きが反映される。各形式が同一の分布範囲を示すとは限らず、各遺物の分布は複雑に交錯している。同一形式においても周辺部では若干の違いを細分としてとらえられることがある。これを型式(type)と呼んでいるが、後述する型式(type)と用語が同じなので、混同しやすい。私はこれを「style」(日本語の様式とは違う。日本語ではあくまでも「スタイル」と訳する)と呼ぶことをことを提唱したい。この呼び方は新しい定義なので注意してもらいたい。
分布については分布論として別に扱う。
時間軸を形成するものが型式(type)である。型式とは同一地域同一形式に属する物質の形式的特徴による細分である。型式は時間によって変化することになる。
考古学遺物から時間的変化をとらえる方法はスエーデンのモンテリウスによって提唱された。かれはチャールズダーゥインの生物進化論をにヒントを得て古典的型式学を提唱したのである。
彼によると、
1,人為物も生物学と同じように区別できる。
2,生物の進化と同じように人為物も系統的に進化する
という法則を提唱し、人為物の系統的進化を組列(seriese)とよんだ。
この組列(seriese)の変化のなかに型式を設定するのである。
組列の方向は次の3つの方法によって決定することができる。
1,層位学的方法
地質学的に単純に積み重なった地層では下の層が古く上の層が新しいという(地層累重の法則)。従って下の層から出土した遺物は古く、上の層から出土した遺物は新しい。これによって組列の方向を決定する。
2,痕跡器官
生物学の生物の祖先が備え機能していたが退化したと見られる器官のことで、人為物にも
横山浩一1985「3型式論」『岩波講座 日本考古学 1 研究の方法』岩波書店 p51
しばしば見ることができる。(背広の袖のボタンや胸のボタンホールなどにみられる)これは時間が経過するとともに機能的なものから機能を持たない単なる飾りへ変化する。この組列を発見する。
3,流行(fashion)
現代でも服装など多くの人為物に見られるように、人々は時として機能とは関係なくそのときの趣向によって人為物の形を変化させる。これを流行と呼ぶ。この流行をとらえることによって組列の方向を決定する。
これらのそれぞれを組み合わせて組列を決定する。
遺物は他の遺物と伴に出土し、明らかに同一時期に使用されたと推測できる場合がある。これを一括遺物と呼び、供伴しているという。組列のわかる遺物と供伴関係を見つけることによって他の遺物の組列を見つけ出すこともできる。一括遺物を検出するとは当時の人々の生活を考える上でも重要であり、編年体系を形成する基礎となる。
ある文化圏の遺物が他の文化圏から出土することがある。これは人々の交流をあらわすとともに、お互いの文化圏がほぼ同一の時期に存在していたことを示している。したがってお互いの文化圏を比較することができる。これを交差年代法(closs dating)と呼ぶ。
様式(yoshiki)これは日本独自の考え方であり、英語の[style]とは違う意味を持つ。したがって「yoshiki」と書く方がよいと考える。様式とは「同一地域・同一時期に行われた一群の形式のまとまり」のことである。「同一地域で同一時代に形成された形式のまとまり(様式)はお互いに補い合って生活の要求を満たしており、これを文化的集団と呼ぶことができる。したがって様式とはある特定の文化を持った集団を特定しようとしているのである。
このように、形式学とは考古遺物や遺構を分類して考察する上で重要な理論である。
横山浩一1985「3型式論」『岩波講座 日本考古学 1 研究の方法』岩波書店 p55